カル村の小説置場です。拙い文章ですがお付き合い頂ければ幸いです。
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またもや間が空いてしまいました、こんにちは、カルトッフェル村崎です。
このブログはもう誰も見ていない気がするので消してしまってもいいような気もしてきましたが消すのはもったいない気もするのです。

戯言はこの辺にして。

文学部で書いた作品です。
「テーマ小説」という、くじびきで幾つかのテーマを決めて、それらすべてを小説の中に組み込んで話を書くというものです。
テーマは、「悪」「爪」「チョコレート」でした。

文学部で書いた作品(趣味で書いたものではない)なので長いです。
そして完全なるギャグです。
初めて書いたバトルもの小説がギャグと言うのもなんですが、大真面目にふざけております。大真面目にふざけるというのが俺のモットーなので。

では、長くなりましたが、右下の「 * * * 」ボタンからどうぞ。







 萩原(はぎわら)洋子(ようこ)は都内の某中学校に通う十四歳の少女である。茶色交じりの黒いショートヘアに、ネイビーブルーの縁の眼鏡をかけた、なんとも平凡な少女であった。
 しかし彼女には、その平凡を覆す『特別』な秘密があった。
 
戦え! スイーツ魔法少女・ショコラちゃん
                 作・縞 綱麻
 
 太陽がちょうど空のてっぺんに掲げられた頃、中学生達はざわめきながら教室の机を並べ変えていた。お待ちかねの昼食の時間である。洋子もまた、仲のいい友人らと机をくっつけて食事と会話を楽しんでいた。
 ふと、彼女が机に置いていた布製のペンケースがもぞりと動く。彼女はそれをちらりと見ると、給食のロールパンを小さく千切り、ペンケースの手前にこぼすふりをした。するとペンケースの開いたファスナーの隙間から、小人のような妖精のような、人型の小さな生物が顔をのぞかせた。
「これは私の昼食でいいのだな、洋子」
ぶっきらぼうな言い方ではあったが、その声は妖艶な女のもので、そして洋子にしか聞こえていなかった。
「ええ、ミセス・フォンダン」
洋子も小さく呟いて返す。友人らはお喋りに夢中で気付いていない。ミセス・フォンダンと呼ばれたその小人は、水が下方に流れるように滑らかに、ペンケースからするりと抜け出た。身長は親指ほどで、茶褐色とチョコレート色でコーディネートされたドレスを着た、貴婦人のような出で立ちだった。
「敵――チョモラ・マンは南町に現れたようだ。行くぞ」
パン屑を齧りながらフォンダンが言い、洋子は席を立ち上がった。
「あれ、どうしたの洋子」
「ちょっとトイレ行ってくるよ、ごめん」
そう告げて彼女は、ぱたぱたと教室を走り去って行った。
  
南町。悲鳴が上がっていた。
 そこでは、電信柱の倍ほどもある、トカゲのような巨大な生物が二本足で闊歩していた。人々は逃げ惑い、死の恐怖に怯えている。
「待ちなさい、怪獣チョモラ・マン!」
そこに、凛と張った少女の声が響いた。謎の生物も、町の人々も振り返る。
「あ、あれは!」
町の青年が指差した先のビルの屋上に、一つの人影があった。
『魔法少女ショコラちゃんだっ!」
幼気な子供が叫ぶ。おおっ、という歓声と共にその影はビルから跳び立ち、チョコレート色をした液体の波に乗って、謎の生物に突っ込んで行った。彼女がサーフィンのように操っていた先程の波は、『怪獣』の目の前まで来ると姿を変え、彼女の腕を包み込み、鉤爪のような形状になった。
「覚悟しなさいっ! 必殺・ショコラグリフ!」
そう叫ぶと同時に、その鉤爪で怪獣の身体を引き裂く。怪獣は悲痛な喚き声を上げると共に七色の光に包まれ、花火のような鮮やかな爆発を遂げた。
 ショコラちゃんと呼ばれた少女は、怪獣の爆発した直後、怪獣の足元であった場所に降り立った。彼女が手を伸ばすと、先程まで怪獣の心臓部であっただろう空中から、煌めく粒が落ちてきた。そっと掌で受け取る。飴玉ほどの大きさをした、宝石のような玉だった。
「回収完了ね」
「ああ。お疲れ、ショコラ」
『ショコラちゃーん! ありがとう!』
宝石を握り呟くショコラちゃんを、彼女の肩に座っているフォンダンが労う。町の人々も歓声を上げ、町を救った少女に感謝を謳っていた。
 
 そして少女は、町に現れた時と同じように、チョコレート色の波を操って帰って行った。友人達の待つ、昼食の席へ。
 
ショコラちゃん――もとい萩原洋子は、世界の平和を守るために日々悪と戦う魔法少女戦士である。
 
とある日、何処からか怪獣が現れるようになった。怪獣達は町を荒らし、人々の暮らしを壊している。『正義の意思の総体』であるというミセス・フォンダンは、奴らを倒すために力を貸してくれる純粋な心の少女を探していたのだという。そして白羽の矢が立ったのが、洋子だった。
ショコラちゃんの能力は、ずばりチョコレートを操ることである。ミセス・フォンダンが生み出すチョコレートはショコラちゃんの思いのままに姿形を変え、彼女を運ぶ海の波のようになったり、また鋼鉄のような硬さを誇るそれは、敵を切り裂く爪や剣、守るための盾になる。
そして怪獣達の心臓部に埋もれている「宝石」を取り出し、回収するのが目的だ。その宝石が何なのかは、ショコラちゃんもまだフォンダンに聞かされていない。
彼女の正体は極秘である。世界を守る第一歩として、自分の正体という秘密を守ることはすべての英雄において共通の義務なのである。
 
 
 次の日。
 数学の授業中、再び洋子のペンケースから、フォンダンが顔を出した。
「洋子、敵が現れた。今日の相手はなかなか手強そうだぞ」
名前を呼ばれた洋子は周りを窺いつつ、ペンケースに顔を近づけてそっと囁く。
「もう少しで授業終わるのに、今抜けるのは難しいよ……」
「仕方ないだろう。お前の成績と世界と、どっちが大事だ?」
「成績って言うか、授業抜けるタイミングが……」
きっ、と睨みつけたフォンダンに渋々頷く。どうしようかとおろおろしている洋子を見兼ねてか、フォンダンはペンケースから跳び出し、素早く机の中に隠れると、
「うっ」
洋子の鳩尾を強く蹴った。とはいえフォンダンは小人サイズなので、それほど痛みがあるわけではない。
「萩原さん? どうしたの、大丈夫?」
「あ、すいません、急にお腹が……」
中年の女性教師が声をかけた。慌てて洋子も、腹部をさするふりをする。
「いいのよ、時間中途半端だけど、トイレ行っておいで」
「す、すいません」
洋子はぱたぱたと教室を出て行った。体育館の裏に回り、誰もいないのを確認すると、
「いくよミセス・フォンダン、変身っ!」
ショコラちゃんへと姿を変える。
 街中をチョコレートの波で進むとさすがに目立つので、中学校近くでは波を使わず、チョコレートで空中に点々とした足場を作り、その上を渡って怪獣のいる場所へと向かう。
「なぁショコラ、彼女は――あの先生は、良い人間だな」
ショコラちゃんの肩に座ったフォンダンが言った。そうだね、と呟いて返す。正直、気が重いのだ。自分のためを思って優しく接してくれる先生に、自分は嘘をついている。先生の気持ちを踏みにじっているのではないか、と思う。
「気負うなショコラ。顔が暗い」
「え……」
どうやら表情に出ていたようだ。フォンダンが優しく頬に触れる。
「魔法少女は美しくあれ、可愛くあれ。人々を笑顔にするのがお前の使命であろう。なら、そのお前は笑顔でいるべきだ」
フォンダンがにやりと笑う。上品なドレスには似合わない、脳天気なヒーローのような笑みだ。
「そうだね、でも……」
「先生がお前に優しくしたことでお前は今ここに居られて、世界を救いに行けるんだ。つまり先生の優しさが世界平和に繋がるんだな」
遠くの方で黒煙が上がっている。怪獣だ。足場を波に変え、急加速する。チョコレート製の鉤爪を両手に纏い、怪獣に突っ込んでいく。フォンダンが言った。
「簡単に言うと、愛は世界を救う、ってやつだ」
 その怪獣は燃えるような紅い身体をしていた。ざらついた皮膚から無数の棘を生やし、いかにも手強そうだった。
「覚悟しなさい、怪獣ジョロキア!」
『ショコラちゃーん、頑張れっ!』
町民の歓声と共に波に乗って、紅い怪獣に突っ込んでいく。しかし。
「えっ、うわっ、きゃあああ!」
波が、波の形をしたチョコレートが急に融けだしたのだ。足場を失ったショコラちゃんは真っ逆さまに転落していく。
「ショコラーーー!」
フォンダンも叫びながら落ちていく。手からチョコレートを発し、ショコラちゃんの真下にトランポリンを形作る。今度は融けずに、ショコラちゃんのやわらかい身体を受け止めた。
しかし尚も怪獣は吼え、挙句火を吹き始めた。群衆に囲まれたショコラちゃんはトランポリンの上で気を失っている。
「くそっ、起きろショコラ! ジョロキアが来る……!」
フォンダンはトランポリンによじ登りながら言った。しかし叫べど揺すれど、ショコラちゃんは目を覚まさない。フォンダンは舌打ちをひとつすると、トランポリンで上空へ跳び、怪獣ジョロキアの目前へ現れた。手からチョコレートを放つ。
「たとえ融けても……これなら効くだろう!」
チョコレートは融けながらも、ジョロキアの目玉に命中した。ジョロキアは悲鳴を上げると共に、霧のようになって消えた。
「う、ん……」
ショコラちゃんが目を覚ました。おおっ、と群衆がどよめく。
「ミセス……わたし、わたしは……そうだ、敵は」
「撃退はした。が、倒してはいない。とにかくここを動くぞ」
フォンダンがそう言うと、チョコレートの渦が二人をトランポリンごと包み込んだ。勢いが収まると渦は霧散して、中に居た二人も姿を消していた。
 
 敵を倒せなかった。初めてのことである。ショコラちゃん、もとい洋子はひどく落ち込んだ顔をしていた。ぼそぼそと給食のパンを齧る洋子を、フォンダンが心配そうな顔で眺めている。
「大丈夫かショコラ……いや、洋子」
今日は「考え事したいから一人にさせて」と友人らに言ったので、洋子は机を離して自席で一人――フォンダンとは一緒だが――給食を食べている。
「しかし何故、チョコレートが融けたのだ……あれでは攻撃出来ないな、困ったものだ」
「ねえミセス・フォンダン、あの怪獣、熱くなかった?」
「熱い?」
「うん、あの怪獣に近づいた時、奴の周りの空間だけやたら熱を帯びているような気がしたの。近づいてすぐにわたしは墜落してしまったから、気のせいかもしれないんだけど」
つまり、ジョロキアは身体から熱を発しているのではないかということだ。フォンダンは、呆気にとられながら洋子を見つめていた。風が耳の横を突き抜けていくような速さで敵に突っ込んで行ったというのに、あのスピードと短時間の中でそれに気づくことが出来たのだ。やはり洋子は、世界を救う『英雄』の素質を持っている。
「だがしかし、でも、それが判ったところでどう対処を」
「そうなんだよねえ」
ふう、と溜息を吐く洋子の横顔を、フォンダンは黙ったまま眺めている。フォンダンが彼女に出会った頃よりも、幾分か大人びて見える横顔だった。
「! ミセス、隠れて」
「む、ぐぅ!」
洋子は慌ててフォンダンをペンケースの中に押し込んだ。友人が近づいてきたのだ。
「洋子さ、どうしたん? 大丈夫? さっきからずっと独り言言ってるから心配になっちゃって」
「な、なつき」
いつも昼食を一緒に食べている友人の夏生だった。少し地味な洋子とは違って華やかな雰囲気の、淡い髪色と長い睫毛が印象的な少女だった。普段は自分の見た目と流行り物にしか興味が無いような性格だったので、声をかけてきたことに洋子は驚いていた。
「あたし達結構心配してるのよ? 差し入れってわけじゃないけど、甘いもの食べて元気出しなさいって」
そう言って夏生は、チョコレート菓子の箱をさし出してきた。
チョコレート関連で沈んでいる洋子にとってそれはあまり嬉しいものではなかったが。
「なつき、お菓子なんて学校に持ち込んでるのバレたら先生に怒られるよ?」
「いや、あたしじゃなくて。リサから」
彼女がちらりと後ろを見る。もう一人の友人の、リサがいた。リサは気だるそうに机に突っ伏していたが、洋子の視線に気づくとブイサインを作って笑って見せた。
「あいつ超面倒臭がりで動かないくせに、こういうのは気が利くんだよねえ。まぁ結局配達係はあたしなわけなんだけど」
はーっと長い溜息をつきながら夏生が言う。洋子は友人らの気持ちに感動しながら、菓子の箱を見つめていた。気付く。あれ、これは。
「おい洋子! 昨日の奴が西町に現れた! 聞こえてるのか!」
ペンケースの隙間からフォンダンが叫んでいる。洋子は暫く箱を見つめていたが、「うんっ!」と元気よく返事をしたかと思うと、「なつき、リサ、ありがとう。私、行ってくる!」と叫び、フォンダン入りのペンケースを引っ掴んで教室を出ていった。廊下を駆け、人気のない突き当たりの窓から外に飛び出す。
「変身っ!」
掛け声と共に洋子の身体は淡い桃色の光に包まれ、魔法少女ショコラちゃんへと変身する。
「ど、どうしたんだ洋子! いや、ショコラか……まぁいい、急に顔色が変わったな」
「ミセス・フォンダン、わたし、勝てるよ」
「えっ?」
今日は人目も気にせず、足場ではなく波に乗って進んでいく。チョコレートの波は滑らかで、ぐんぐん速くなっていく。
「これ見て」
そう言ってショコラちゃんが取り出したのは、先程夏生とリサから貰った菓子の箱だった。チェリーピンクの文字で、でかでかと『焼きチョコ』と書かれていた。
「やき、ちょこ?」
「そうだよ、焼いてしまえば、融けないんだ!」
そう言うショコラちゃんの目前にはもう怪獣がいた。驚きの悲鳴を上げるフォンダンを肩に載せたまま、波からジャンプし、怪獣の頭上に飛び出る。先程まで彼女達が乗っていたチョコ製の波はどろどろに融けて形を失い、ボタボタと地面に叩きつけられていた。
「少ない熱じゃ融けてしまうけど、ね」
鉤爪を纏う。怪獣ジョロキアが、炎を吐いた。
「危ないショコラ!」
「大丈夫だよ! わたしを、信じて!」
ショコラちゃんは吐き出された炎を両腕で防いだ。すると、彼女の腕をコーティングしていたチョコレートが、黒く、そして艶を増して現れた。
「ショコラ、これは……」
「ミセス製のチョコは焼くとこうなるのね、美味しそう」
ショコラちゃんはふふっと笑みを浮かべ、その腕をジョロキアに向かって振り下ろした。
「くらえ! 必殺・ショコラグリフ!!」
鉤爪は融けずに、脳天からまっすぐジョロキアを引き裂いた。ジョロキアは吼えながら崩れていく。そして、七色の光を放って消えた。宙に、煌めく宝石が浮かんでいる。ショコラちゃんはそれを掴むと、肩に居るフォンダンの前に差し出し、「ね、勝ったでしょ!」と笑って言った。無邪気な笑顔だった。フォンダンもつられて笑う。町の人々は声を上げて、我らがショコラちゃんの勝利を歓んだ。
 
 歓声の中、ミセス・フォンダンは一人感じていた。
 敵は、確実に強くなっている。今回のように特異な性質を持つ怪獣や、もっと能力の高い敵が現れるかもしれない。もしそうだとしたら、この少女一人に世界を任せて平気なのだろうか? 彼女は、この世界という重圧に耐え切れるのか?
 彼女は今回の戦いを乗り越えて強くなった。自分で勝つ方法を見つけた。周りに支えてくれる人間もいる。
 だからこそ自分達は戦い続けなければならないのだ。あの女性教師や夏生、リサという人間。そして自分の隣で今笑っている少女。私にも、彼女を選んだことで彼女を苦しめてしまったという重圧がある。彼女と同じ境遇と言えばそうなのかもしれない。
 
 萩原洋子とミセス・フォンダン――即ちスイーツ魔法少女、ショコラちゃんの戦いは、始まったばかりである。










ここまでお読み頂きありがとうございました。

実際には焼きチョコと言うものを食べたことがないのでどういうものか分かっていないのですが……。
画像で見たところ、フォンダンお手製のチョコレートとは違って焼いても艶は出ないみたいです。寧ろカサカサ?

オリジナルの設定で書くというのは難しいものですね。
特に魔法少女ものやバトルものは設定が凝るので、考えるのは楽しいのですが、伝えるのは大変だということを実感いたしました。

長文失礼いたします。
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