私には妹がいた。一卵性双生児の、双子の妹。同じ顔で同じ声、同じ身長で同じ格好。見分けなんてつかないくらい、よく似た姉妹だった。
――見た目だけは。
自分で言うのもなんだが、私は明るい性格だった。自分から人の輪に入っていく、闊達な少女だった。
だけど妹は違った。彼女は物静かで、自分から誰かの元へ寄っていくことは無いに等しかった。しかし彼女の元には人が集まった。
私は、自分から近づかないと、傍にいてくれる誰かが見つからない。だけど妹は、呼ばずとも誰かを引き寄せる力を持っている。私より彼女の方が愛されているのは明らかだった。
やがて、妹が誰かといるのを見ると苛立ちを覚えるようになった。私には、その感情が「嫉妬」であることはすぐに判った。彼女の傍に誰もおらず、私だけが彼女といるときには安心感があったからだ。
しかし私はあるとき気づいた。私は、妹無しで誰かの傍にいるのは楽しくないのだと。私が嫉妬していた相手は、妹でないのだと。
私は、妹に、恋をしていた。
同じ顔で同じ声、同じ身長で同じ格好。私とよく似た私の妹を、私は好きになった。
だけど私は、こんな自分を愛せない。一見人気者に見えて、本当は本当の自分を晒け出せなくて。だから私は私が嫌いだ。だけど私は、私と同じ顔の誰かに恋をした。そこに生じる矛盾が私を苦しめる。
ぼさぼさの髪に、荒れた皮膚。鏡に映った私は、いかにも汚い。それなのに、私の隣で眠っている妹の寝顔は、とても愛らしく見える。おんなじ顔なのになぁ。そう呟いて、愛らしい寝息を立てる妹の額にそっとキスを落とした。
おねえちゃん、好きな人いるでしょ。
とある日妹が言った。そう放ったチェリーピンクの唇に思わず目が行って、途端に恥ずかしくなる。
わかるよ、双子だもん。
にこりと微笑んで私の手を握る。ちゃんと話せということだ。
私の大切な人はね。
ゆっくりと話し始める。私と似てる筈なんだけど、私と違って愛されていて。――私の隣にいて。そう付け加えようとして、言葉が詰まった。そんなこと、言ったってどうしようもないのだ。私が彼女みたいに愛されるわけでも、ましてや彼女が私を愛してくれるわけではない。いくら似ていても、私は彼女にはなれない。私は彼女ではない。私は彼女とは違う。私は愛されない。
違うから惹かれるんだよ。
妹が言った。
自分と違うから、好きになるんだよ。最初こそ単なる憧れからだろうけれど、それがきっかけで惹かれて、そこから魅力を見つけて好きになっていくんだよ。
そう話す妹の表情は、いつもの無邪気な愛らしさでなく、凛とした強さを湛えていた。初めて見る表情に、どきりと心臓が強く打つ。だけど、その気持ちの正当性を妹が認めてくれても、彼女は私を。
目頭が熱くなるのを感じた。そんな顔を見られたくなくて俯く。でも、涙より先に私の頬に触れたのは、妹のあたたかい手だった。
だから私は、おねえちゃんが好き。
妹のその言葉に止まる。彼女は、私の額を自分の額に寄せた。触れ合う鼻先がくすぐったい。
私も、おねえちゃんと同じ気持ちなんだよ。私、おねえちゃんのこと好きなんだ。いつも誰かと楽しそうに話せてかっこいい。そんな勇気、私には無いから。それに、私のこと誰より大切にしてくれるのはお姉ちゃんだけだもの。私とおねえちゃんは違う、だけど、だから好きなんだ。
なんか恥ずかしいね、と呟いて妹は笑った。その表情から先程の強さは消えていて、代わりにいつもの愛らしさがそこには戻っていた。
なんだ、私たち、結局同じこと考えてたんだね。最初から解り合えてたんだ。
私がそう言うと、妹は嬉しそうに頷いて言った。
そうだよ、だって私たち、双子だもん。
私と妹は、同じ顔をして、同じように笑っていた。
双子の片割れが嫉妬するのがもう片方じゃなくて、もう片方の周囲の人間というシーンが書きたいだけのお話でした。
鍵括弧を使いたくなかったのでその欲に従ったら非常に読みにくかったです。