カル村の小説置場です。拙い文章ですがお付き合い頂ければ幸いです。
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今年初めて書き上げた作品です。
と言っても思いついたのはだいぶ前で、着手したのも年明け前からです。
タイトルはさっき付けました。ネーミングセンスが欲しいです。

追記からどうぞ。











 

 排気ガスの香る道路から見上げると、その墓地には彼岸花が群れるように咲いているのが見えて、僕は階段を登ってその墓地周辺を散策してみることにしたのです。
 古い石階段の周りにはまだ少し夏の色が残って雑草が茂っていましたが、それを登り終えてみるとりっぱな彼岸花が墓石達を囲んで咲き誇っているのでした。僕は赤色が好きだったので、すっかりいい気分になって散歩を続けました。
 すると、とあるお墓の前に、死体が手を合わせてしゃがみ込んでいました。勿論死体というのは形容で、女の人だったのですが、真っ白な服に包まれた、同じく真っ白な肌の細すぎる体は僕の目には死体のように映ったのでした。
 僕はしばらくその人を遠くから眺めていました。彫りの深い顔、伏せられた目と睫毛、華奢な腕や脚や手や指をじっくり見たあと、僕の視線は、その人の首に行きました。とても細くて、頭を支えるのがせいいっぱいなのではないかと思えました。本当に今にも折れてしまいそうなのです。
 僕は、その首を折ってみたくなりました。小さい頃によくある、蟻の巣を埋めたりばったの頭をもいだりしたくなる衝動と同じような感覚でした。どのくらいの力を入れたら折れるのかな、それとも触れただけでぽきりといってしまうのだろうか、なんてことを考えながら、その女の人に一歩ずつ近づいていきました。
 すると、僕がその首に手を伸ばそうとした瞬間、女の人がぱっとこちらを向きました。僕は伸ばしかけていた手を思わず引っ込め、どうしていいか一瞬迷ったあと、即興で、エヘッとはにかんでみました。女の人は僕を見て、ほんの一秒だけ驚いたような表情をしてから少し見つめたあと、同じようにはにかみ返してくれました。その目はとても大きくて、頭蓋骨の空洞部分に丸ごと眼球が埋め込まれているのではないかと思うほどでした。

「彼岸花、綺麗ですね」
僕は言いました。女の人は座ったまま、「そうですね」と返しました。その顔は笑ってはいません。それはそうです、何故ならここはお墓で、彼女も墓参りに来ている人間なのですから。墓に来て楽しがっているような人間は僕くらいのものです。そんな僕を眺めて、女の人は言いました。
「ここには、私の恋人がいます」
女の人が指差したのは、彼女の座っていた目の前の墓石でした。彼女の恋人は、ある日通り魔に刺されて突然死んでしまったのです。女の人が話しているあいだ、線香の煙がゆらゆらするだけで、女の人の表情は固まったままでした。
 女の人は、しばらく黙って僕を見つめたあと、言いました。
 私の恋人になってくれませんか。
 心がすかすかしてしまってどうにも寂しいから、傍にいてくれないかと彼女は言うのです。
 僕はすぐに、首を縦に振りました。彼女の傍にいれば、いつかは彼女の首に触れることができると思ったからです。つまり、僕は、彼女の恋人になって、彼女を安心させたところで彼女の首を折ろうという、我ながら狐のような狡猾な作戦に出たわけです。こうして僕は、見事に彼女と恋人になったのです。


 僕は彼女の家に住むことになりました。彼女の家と言っても、もともとの恋人さんと同棲していた家だそうで、二人ぶんが暮らせるそれなりにりっぱな家でした。
 彼女は、ほとんど見ず知らずの僕に、よく尽くしてくれました。最初こそ戸惑いはしましたが、僕はすぐにそれに馴れ、またそれが心地よく思えるようになりました。つまり、それは、僕が彼女との生活に快楽を、彼女といることに幸せを感じ始めていたということです。

 しかし僕の性根は相変わらずで、いつなら彼女の首を上手く折ることができるだろうと待ちわびていたのです。寝ているあいだに絞め殺してしまえばよいのですが、どうしてか彼女はいつも僕よりも遅寝さんで、彼女が眠るのを待っていると朝になってしまうのです。
 僕はだんだんおかしな心持ちになり始めました。彼女の首を折るために彼女と恋人になったのに、彼女を死なせてしまうのは惜しいような気がしてならないのです。
 僕は貪欲でした。そして、その欲に忠実でした。そしてまた、それらの欲は、言い分のわからない滅茶苦茶なものであることが多かったのです。たとえば、それこそばったの頭をもぎたくなるような衝動的なものですが、そんな欲に僕は忠実で、何のためらいもなく僕はたくさんのばったの頭をもいできました。脳をもぎ取られたばったがいずれ死ぬことは知っていましたが、死骸を見て気分が悪くなることも知っていましたが、それでも僕はその一瞬の衝動に勝てないのでした。
 いつもなら衝動的な僕の欲が珍しく長続きしたのをいいことに、僕は、いっそ衝動に打ち勝とうと思いました。この言い分のわからない欲に勝って、彼女と正当かつ幸せな恋人になろうと決心したのです。

 それなのに、僕のようなろくでもない人間には運が向かないようなのです。僕が決心したその晩のことでした。
 僕と彼女は、居間のソファーに並んで座ってテレビを見ていました。サスペンスものでした。ところが、主人公の女性の恋人が通り魔に刺されるシーンになって、彼女が突然泣き出したのです。僕は驚いて、あわてながら彼女の背中をさすりました。彼女はむせていました。
 そのときになって、僕はやっと思い出したのです。そういえば、彼女の昔の恋人は、通り魔に殺されてしまったのでした。
 と言っても、彼女の今の恋人は僕ですから、僕は恋人として彼女を元気づけてあげたいわけです。僕は彼女をそっと抱きしめてあげました。
 ところが、彼女は、僕の腕を振り払って、挙げ句僕を突き飛ばしたのです。僕は驚いて、目を丸くして彼女の方を見ました。彼女は爛々とした目で、僕を睨んでいました。僕はそのとき、昔むかしの記憶を思い出してしまったのです。

 僕が夜道を歩いていると、目の前に一組の男女がいました。男も女も幸せそうに、寄り添って歩いていました。
 僕は、まったく見知らぬ二人があんまり幸せそうなのを見て、まったくの他人が何故僕よりも幸せなのか、それがどうにも悔しくて、そのまま、男のほうを、ふところに入れていたナイフで刺して殺してしまったのです。
 女のほうは、とても華奢な体をしていて、誰かの名前を叫んだあと、助けを求めてわめいていました。ひどく大きな、爛々とした目でこちらを睨んでいました。

 彼女は泣きながら、昔どこかで聞いた男物の名前をつぶやいていました。
 僕は、彼女にはめられたのでした。彼女は、僕が彼女の昔の恋人を殺した通り魔だと知っていたのです。なんにも知らない僕を馬鹿にして、恋人ごっこをしていたのです。


 僕は、相変わらず衝動に負けてしまいました。
 僕は彼女の首をひっつかんで、そのまま、折ってしまいました。彼女の細い首は、僕が全身の力を込める前に折れてしまいました。

 彼女は死ぬ間際、少し笑っていました。本当の恋人のところへ逝けるからでしょう。やっぱり僕ははめられたのです、彼女はきっと彼と同じように死にたかったのでしょう。結局僕は、彼女の都合のためのコマだったのです。
 僕はせっかく、念願だった彼女の首を折ったというのに、なんの達成感も喜びもありませんでした。見知らぬ女にだまされたというのに、悔しくもありませんでした。ただ僕は、初めて好きになった人を、自分自身の手によって失った悲しみにくれているしかできなかったのでした。




 

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