死にたくなかった。
貶されて腐されて蔑ろにされた。何度も「死ね」と言われた。何度も泣いた。何度も手首を切った。
だけど、死にたくはなかった。何度建物の屋上に立っても、飛び降りることは出来なかった。
死んでも死ななくても俺がひとりであることは変わらなかった。けれど、死ぬのは怖くて死ねなかった。
あなたと出会った。
あなたは俺の全部を受け入れてくれた。どれだけ弱さを晒け出してもどれだけ泣き言を言っても、あなたはずっと傍で聞いてくれていた。
俺の存在を初めて認めてくれた。存在することを許してくれた。初めて愛してくれた。俺も、初めて誰かを愛した。初めての大切な人ができた。
とある時あなたが言った。
君は、死にたいかい?
俺は、首を振って答えた。
死にたくない。
そうすると、あなたは哀しそうに笑って言った。
それじゃだめ。
別の答えが出せたらおいで。
それまで傍にはいられない。
そう言って、あなたは俺の前から消えた。
それじゃだめ。
「死にたくない」じゃだめ。
死なないことがだめ? なら、消えろというのか。死ねというのか。
嫌だ。死にたくない。大切なあなたの傍にいたい。大好きなあなたと一緒にいたい。あなたと生きていたい。
生きていたい?
自分が放った言葉に止まる。
俺は、俺は。ああ、そうか。そうなのだ。俺は。
もう一度、あなたの前に立った。自分の見つけた答えを持って。
あなたは、あの時と同じように言った。
君は、死にたいかい?
俺は首を横に振った。そして言った。
俺は、生きていたい。
あなたの目を見つめる。すると言葉より先に、あなたは目から雫をこぼした。そして、涙を拭って、あなたは笑った。
俺は、死にたくなくなった。
俺は、生きていたくなった。