彼はいつも、窓の外を眺めていた。
別に空や草木を見ているのではない。
ただ、「外」をぼうっと見つめているのだった。
とある日、彼の隣に座ってみた。
好奇心というか、興味からだった。
彼は変わらず外を眺めている。
彼は何も言わない。
僕は彼を眺めてみる。
僕も何も言わない。
それが何日か続いた。
彼はずっと外を見ていた。
僕もずっと彼を眺めていた。
ある日、口を開いてみた。
なんでずっと外を眺めてるの?
彼は口を開かなかった。
代わりに、喉でうーんと返事をした。
なんでだろうねぇ。
遠くを眺めながら彼が言う。
目は合わない。
それから先、二人とも口を開かなかった。
彼は毎日どこかを眺めてた。
僕は毎日彼の隣にいた。
理由は知らなかった。
彼のも僕のも。
知らなくてもいい気がした。
なんでだろうねぇ。
ある日彼が口を開いた。
久々の声に僕は振り返った。
つまらなくはないんだろうね。
彼が続ける。
見てて飽きることも無いし。
それをやめる理由も無いし。
なんでだと思う?
彼は僕の方を見た。初めて合う目と目。
しばしば、まばたきをしてみる。
だけど彼は視線を逸らさない。
自分が引くのは気に食わない。
だからまっすぐ彼を見て言った。
好きなんじゃないかな。
君は、窓の外を眺めるのが。
だから、ずっとそうしてるんじゃないかな。
たぶん、だけど。
と最後につけ加えた。
彼がゆっくりまばたきをする。
ふうん、と漏らして目を逸らした。
じゃあなんでお前はここにいるの?
彼が僕を見て言った。
僕は答えようとして、なんでか目を逸らした。
ええと。何故か口ごもる。
頬のあたりがむずむずする。
君のそれと、同じだと思う。
どこかを眺めて僕は言った。
たぶんだけど、とつけ加えて。
横目で彼の方を見る。
彼はまた、どこかを眺めてた。
だけどその表情は、少し笑っていた。
それがなんとなく嬉しくて、僕もつられて笑った。