カル村の小説置場です。拙い文章ですがお付き合い頂ければ幸いです。
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お久しぶりです。
実に2カ月以上経っていますね。完全なる放置です。

久々なので灰色で行きます。
昨年の9月頃に書いた作品です。
まぁ実話のようなものです。

追記からどうぞ。














 

 朝、窓から見える雲は重たい灰色をしていた。それを見ると、僕は跳ね起きて急いで学校の支度を始めた。今日の天気は、雨。
 馴染みの知り合いである彼女は、僕の通う高校の隣の学校に行っていた。彼女は自転車通学で、僕は電車通学。雨の日は自転車が使えないから、彼女は電車で来る。だから、雨の日は、彼女に会えるかもしれない日だった。

 余裕を持って出てきた筈だったのに、傘が風の抵抗を受けて行く手を阻んだ。それが鬱陶しくて、結局傘を閉じて雨の中を走った。
 彼女は確か、早い時間の電車に乗る筈だ。あと七分。駅まではまだ遠い。舌打ちをして、水溜まりを跳ねかしながら全速力で駆けた。

 息を切らせて駅に着くと、電光掲示板がいくつかの数字を点滅させていた。電車が、自分が予定していたよりも三分早く出発するというのだ。
 階段を駆け登るより早く、電車が出発した。雨に濡らされ曇った眼鏡で、駅から離れていく電車の尻尾を見送った。
 次の電車は、いつもより一分早いだけだから、彼女はきっとこれに乗るだろう。そう何度も心の中で呟いた。無意識だった。そうでもしなければ、心が折れる。それほどに僕は彼女に会いたがっていたのだ。

 もう発車の時間になる。開いた電車のドアから、強くなった雨と風が吹き込んでくる。だけれど、湿気を吸って黒ずんだホームに彼女の姿はない。陽光のないこの場所が、いっそう暗く見える。
 水滴に奪われた視界を取り戻そうと、雨粒のついた眼鏡を拭いた。視力のせいか、そうでないかは判らなかったけれど、世界がぼやけて揺れる。
 そのとき、よくは見えない筈の僕の目が、何かをはっきりと捉えた。あ、と思わず声が漏れる。心臓が強く打った。暗い世界によく映える白いシャツ。雨の中の太陽。僕がずっと焦がれていた、彼女だった。

 彼女は僕の顔を見ると、手をぴっ、と立てた。彼女流の、親しくない者への短い挨拶。そしてそのまま、隣の車両へ乗った。僕の傍には来たりしない。僕と彼女は、決して仲が良くはないから。むしろ、彼女の感情は負に傾いているから。僕とは逆で。
 心臓が高鳴りをやめない。締め付けるような痛みが全身を走る。声をかけたい。だけどその勇気が出ない。拒まれるのが怖いのだ。彼女は、この雨よりも、ずっと冷たいから。

 駅を出ると、雨は一段と強さを増していた。だけど雨が傘を叩くより強く、僕の心臓は大きく脈を打っていた。冷えきった世界で、僕の身体だけが火照っている。
 傘を握る手に、じとりと汗が浮かぶ。灰色に映える白い背中を、僕はずっと見つめていた。声をかけたい。身体が震える。だけど、心の中でどれだけ叫んでも、それは彼女には聞こえなかった。
 視界がまた歪む。眼鏡に手をやろうとして、自分の頬に手が触れた。濡れていた。頬も、目尻も。そして僕は、自分の頬を濡らした雫が雨ではないことに気づいた。その雫は、熱かったから。そうしているうちに、涙腺のリミッターが外れた。降りしきる雨の中、傘の下で僕は散々に濡れた。

 結局、何も出来ないうちに分かれ道に辿り着いた。遠ざかる背中を、小さく手を振って見送る。もちろん、彼女には見えていない。
 彼女をつかまえたくて伸ばした左手は、雨に打たれて青く冷えていた。





ちなみに、タイトルは「ひさめ」と読みます。
氷雨との掛詞のような造語です。

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