僕の隣で泣いているその人は、僕の大切な人だった。彼女には、僕と同じように大切な人がいた。
彼女は、その大切な彼のことでいつも苦しんでいた。自分はこれほど彼のことを想っているのに、彼は自分の方を向いてくれない、と悲しんでいた。
僕も、その気持ちはよくわかる。僕の大切な人も、僕の方を見てくれないから。
彼女は、大切な人に自分の気持ちを伝えられないのだと言っていた。拒まれるのが、傷つくことが怖いから、と。
僕も、わかるよ。だって僕も、君と同じ境遇にいるから。
彼女は、大切な人に愛してもらえないのだと泣いていた。大切な人に大切に思ってもらえないことが、つらくて苦しくて悲しくて、寂しいのだと。
僕には、その気持ちが痛いほどよくわかっていた。だって、僕も、彼女に愛してもらえないから。
僕は、彼女の苦しみをわかっていたし、わかってあげたかった。だって僕は、彼女が好きだったから。
とある日、彼が死んだ。理由は、知らない。彼女はそれだけ言うと、声をあげて泣いた。
彼女の泣き顔を見るのが嫌で、慰めようとして抱きしめた。そうしたら、振りはらわれて、頬を叩かれた。あなたに私の気持ちがわかるか。大切な人を喪ったのだ。彼に会うことも、声を聞くことも、笑顔を見ることも叶わない、愛される可能性も失くなったのだ。そう言って、彼女はその場に泣き崩れた。
わからない? 今の僕じゃ、彼女の気持ちを理解してあげられないのか? そんなの嫌だ。彼女のことを、彼女の痛みをわかってあげたい。だって、彼女のことが好きだから。
その人に会うことも、声を聞くことも、笑顔を見ることも、愛されることも叶わなくなること。それが、大切な人を喪うこと。
ねえ。今なら、君の気持ちわかるよ。大切な人がいなくなる苦しみ、悲しみ、寂しさ。僕なら、君の痛み、わかってあげられるよ。だって僕は、君のことが好きだから。
僕はそう、彼女に語りかけた。僕の腕の中にいる、赤く冷たくなった彼女に。
前のやつらよりは幾分かお話っぽいですね。文体的に。
しかし荒んでますなあ昔の俺……。