鉛色の空。その下の廃墟。
ふらつく男はホームレス。
住処も家族もない。
夢は疾うに捨てた。希望は最初からない。
だけど死にたくはない。
死ぬのは怖い。
どうなるのか判らないから、怖い。
灰色の壁。灰色の床。
そこに連なる赤い道。
赤?
廃墟の中を進む。
生臭い。
血。
血に塗れた少女。
銀の刃。
転がる無数の死体。
何をしている?
男は問うた。
人を殺した。
少女が答えた。
何故に殺す。
男は尋ねた。
人が死ぬのを見たいから。
死んだらどうなるのか判らないから。
死ぬのが怖いから。
少女が言った。
殺すのは怖くないのか。
男は続けた。
怖くはない。
或いは、慣れてしまって解らない。
少女が呟いた。
では、自分を殺すのは怖いか。
男は見つめた。
返事はない。
少女が俯いた。
私は、人を、たくさん殺した。
だから、殺すことには慣れた。
私は、人を、たくさん殺した。
だから、こんな私を殺したい。
だけど死ぬのは怖い。
ひとりで死ぬのは寂しいから。
少女が泣いた。
男は少女の髪を撫でた。
そして口を開いた。
それなら私が共に死のう。
どうせ私も生きる意味の無い身だ。
もう誰を殺そうが明るい未来はない。
私は君を殺すから、君は私を殺してくれ。
二人なら、寂しくはないだろう?
少女が顔を上げる。
その頬は濡れていた。
目からまた雫をこぼして、男にナイフを差し出した。
崩れ落ちる音。
赤く蝕まれる灰色。
豪奢な廃墟の、最後の焔が消える。
赤黒い褥。
その上で、銀の刃だけが煌めいていた。
俺の中で最速の心中話。
5分もかかってないんじゃないかなあ……w
笑える話じゃないんだけどね。
外がキンモクセイくさいよぅ。